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「定年後の給与水準引き下げ」に対する判例1
2019/07/16
長澤運輸、定年再雇用後に同じ業務での賃金格差は「違法」 <裁判の概要> <判決のポイント> ・ドライバーとしての仕事の内容や責任の程度が変わらない一方、年収が定年前より2~3割下がっていた点を不合理と判断した。 |
この裁判では、正社員のトラック運転手の賃金と、定年後再雇用されたトラック運転手の賃金の格差が争点になりました。トラック運転手の仕事は、定年前も定年後もほとんど同じです。
したがって、同一労働同一賃金の考え方からすると、定年前後で「賃金格差が生じるのはおかしい」という論理になりそうです。しかし、地裁と最高裁は異なる判断を下しました。
まずは、上記の東京地裁の判決内容。
東京地裁の判断は明確で、定年前と同じ仕事を定年再雇用者にさせているのだから、給与水準を下げるのは不合理だ、としています。
ポイントは、定年再雇用者の年収が「2~3割下がった」点です。企業の経営者や人事担当者からすると、正社員と定年再雇用者に2~3割の差をつけることは「当然のこと」と感じるのではないでしょうか。
ところが東京地裁は、コスト圧縮の手段として、定年再雇用者の年収を2~3割下げることは正当ではないと考えました。
ただ東京地裁は、1)コスト増大の回避、2)定年者の雇用確保、3)定年前より賃金を下げる――の3つを企業が行うことは認めています。したがって、「全くの同一労働にもかかわらず、2~3割の下げ」がポイントになってくるわけです。
さて、この訴訟は最高裁まで進み、最高裁は東京地裁とは異なる判断を下しています。最高裁の判断なので大きく報道されました。
長澤運輸、最高裁は定年再雇用後の待遇格差は「不合理でない」 <裁判の概要> <判決のポイント> ・長期雇用前提の正社員と定年再雇用の嘱託社員とでは、会社の賃金体系が異なることを重視。仕事内容が変わらなくても、給与や手当の一部、賞与を支給しないのは不合理ではないと判断した。 ・ただし、皆勤者に支払われる「精勤手当」を嘱託社員に支給しないのは不合理で違法とした。 |
まず最高裁は「定年後の再雇用で、正社員との待遇格差が出ることは不合理ではない」という前提を示しています。ただ最高裁は同時に、待遇格差の問題は「個別に検討」するとしました。
長澤運輸の事案について最高裁は、定年前後で「仕事の内容は変わらない」としながらも、「給与、手当の一部、賞与」を定年再雇用者に支給しないのは、不合理ではないとしています。「2~3割の年収差」を違法とした東京地裁との違いは鮮明です。
長澤運輸の場合は、正社員と定年再雇用者の間に「職務:同じ」「職務と配置の変更:同じ」「その他の事情:あり(訴えを起こしたのが定年再雇用者)」という3つの前提があります。
そのうえで最高裁は、年収水準が79%に落ちることと、賞与不支給、住宅手当不支給、家族手当不支給は不合理ではない、としました。
しかし、精勤手当の不支給は不合理(違法)であるとしました。