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書評「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」④
2018/05/04
「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」
著者 山口俊一
【書評】
政府の「働き方改革」でメインとなる「同一労働同一賃金」の制度について、詳しくまとまっている本です。
テーマや具体例の提示などがあり、全体的に読みやすくてまるで教科書のようにしっかりとした内容です。
「働き方改革」、「同一労働同一賃金」について詳しくは知らないという方は、本書だけでその知識が補えることでしょう。
著者の山口俊一氏は、人事コンサルタントとして約25年勤務しており、中小企業から一部上場企業に至るまで、
あらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手掛けた経験があります。
代表著書には、「社員300名までの人事評価・賃金制度入門」、「成果主義人事入門」、「3時間でわかる職種別賃金入門」など。
「プレジデントオンライン」等掲載に加筆修正を加えた本作では、それらの豊富な経験と最新の具体的なデータを用いて
現在から未来に至るまでの様々な職種の給与変化の道筋を予測しています。
正社員・非正規社員・経営者といった職種以外にも、独身・既婚者・女性・男性・中高年といった各々の立場に対しても、
今後の「働き方改革」による法改正で将来的にどのように給料が変化するのかという予測を行っています。
本書は第1章から第8章まで、それぞれテーマが異なります。
それぞれの章ごとの特徴についてまとめてみたので参考にしてください。
第1章では、「同一労働同一賃金って、どういうこと?」と題して、「同一労働同一賃金」について、最低限知っておくべき基本事項について書かれています。
諸外国と日本の労働環境の違いや、今の日本の労働環境の問題点などが記載されている総合的な内容です。
2016年に厚生労働省が公開した「同一労働同一賃金ガイドライン」をもとにして、各企業が今後行う可能性のある対応策の予測を行い、
特に中高年男性正社員の給与は今後下がっていくのではないかと結論付けています。
第2章では、「非正規社員へのインパクト」と題して、パートやアルバイトで働く方の賃金について特集しています。
非正規社員の賃金上昇を拒んできた正社員とは異なる税制問題や既得権について、2006年に行われた意識調査をもとにして分析・考察しています。
最低賃金の時給が増加していく中、2016年10月からは社会保険加入者の拡大もあり、人件費の影響は大きくなっています。
この人件費をコントロールするための方法についていくつか考察していますが、実際に行う場合のハードルの高さを考えると、まずは生産性を引き上げることを考慮した方が良いと結論づけています。
その他にも、「無期契約社員」や「限定正社員」といった働き方についても詳しく説明しています。
正社員以外にどのような働き方があるのかを知りたい方にとって有用な章といえるでしょう。
第3章では、「正社員へのインパクト」と題して、年功序列賃金制度について特集しています。
働き盛りの20代・30代の賃金、50代の中年や管理職といった人々の賃金は、年功序列という観点から考えるとどのように変化しているのかという点についてまとめられています。
この章で特に興味深かった点が、男女の給与水準格差についてのデータです。
1985年に導入された男女雇用機会均等法改正をきっかけに、様々な取り組みが行われましたが、未だに女性の給与水準は男性の70%程度に留まっている(ちなみに欧米諸国は80~90%程度)という点が気になりました。
この点について著者は、今後同一労働同一賃金により社員の待遇改善が行われれば、特に管理職を目指す女性の給与は上がるのではないかと指摘しています。
その他に、「家族持ちと独身者」(家族手当・配偶者手当について)、「親会社・子会社社員について」などの情報も得られるため、該当者はぜひ一読していただきたい内容です。
第4章では、「働き方改革に要注意」と題して、今回の働き方改革の規制対象外となる「管理職」、「経営者」、「フリーランス」、「公立学校の教諭」の働き方について特集しています。
業務時間の多いこれらの職業には、これまでとは異なる働き方改革が必要になります。
具体的には「裁量労働制の適用拡大」、「本人選択による残業規制の適用除外」を上手く活用すべきだとしています。
働き方改革によって残業を減らしても収入を減らさない方法として、「生産性連勤賞与」を提案しています。
しかしこの方法を導入している企業は少なく、結果的には収入は下がるとまとめています。
その他「副業」・「兼業」との付き合いかたについても触れられていますので、気になる方はぜひご確認ください。
そして、第5章「寿命百年時代の人事のあり方」・第6章「経営者・役員はどうなる」からは、これまで第1章から第4章まで、どちらかといえば若年者向けの内容だったのが、中高年や高年齢者向けの内容に変化しています。
年金や定年後に行われる再雇用の給与制度について、給与・賞与基準例の表などを例にして説明しています。
定年後も働き続けられるような社会を政府は実現しようとしています。
そのため、シニア層もこれから起こる「多様化」時代を乗り越えるために副業や企業が必要ではないかと指摘しています。
退職金は今後減少傾向のため、「確定拠出年金」制度を使った個人の福利厚生の利用について紹介されています。
さらに社長や経営者の賃金についてモデルケースを元にして話が展開されているところもおすすめです。
第7章では、「業界別の人事環境と方向性」と題して、「製造業」、「小売業」、「IT業」、「建設業」、「物流業」など近年人手不足と言われがちな業態について紹介されています。
業種によっては、同一労働同一賃金が実現しやすい職種・しにくい職種があるので、ご自身やご家族がそれぞれの業界で従事しているという方は、実際に確認しておくべき内容となっています。
第8章の「結局、どうしたらいいの?」では、これまでの話を総括して最終結論を書いています。
それぞれの立場で、どうすれば「同一労働同一賃金」が導入された社会を生き残ることができるのかを丁寧に解説しています。
特に興味深い点が、これまでの章ではあまり触れられていない新卒者についての内容です。
早期離職を行った上位に「肉体的・精神的に健康を損ねたため」、「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかったため」「人間関係がよくなかったため」との理由があり、新卒離職率の高い中小企業は、これらの点に着目して改善策を行うことで新卒定着率を高めることができるのではないか、新卒者や就職活動中の学生は、就職先を選ぶ際にこれらの点について確認することで入社後のミスマッチを改善できるのではないかとまとめています。
現在すでに少子超高齢化に突入している我が国では、「働き方改革」を行わなければ、労働力低下が顕著になることでしょう。
本書はそんな時代を生き抜くための労働者・経営者にとっての頼もしい指標になるのではないでしょうか。