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書評「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」⑧

2018/05/30

「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」

著者 山口俊一

【書評】

バブル崩壊以降、企業の人事・賃金システムは日本型成果主義システムが導入され大きく変わったかに見えましたが、若手より中高年、女性より男性、独身者より家族持ち、非正規社員より正社員と、根本のところではこれまでと変わりありませんでした。
長年続いてきた日本人事の常識が「同一労働一賃金」で崩壊するかもしれません。

それほどインパクトのあるテーマであり、時間はかかるかもしれませんが、これまでの賃金バランスは変化していくでしょうし、法制化に先立ち、人事給与制度を会社も出始めています。
この考え方は、最近出てきたようなものではなく、日本も加盟している国際労働機関(ILO)の基本的思想に「同一価値労働同一報酬の原則」というものがあり、男女が同じ仕事や客観的な基準に照らして
同一価値の仕事である場合には同一の賃金を受け取るべきだとなっています。

男女とあるように、もともとは性別による賃金の格差を是正しようというものでした。
一方、日本政府が働き方改革の目玉として進めようとしているこの「同一労働同一賃金」には、主に3つの特徴があります。

①正社員と非正規社員の賃金格差是正の目的としています。
これは、時代とともに働き方は変化が起きており、労働者全体に占める非正規社員の割合は、4割まで達しています。
従来のような主婦パートや学生アルバイトではなく、その収入によって生計を立てなければならない
契約社員や派遣社員、フリーターといった層が年々増加傾向にあります。
②社会全体ではなく、各企業内での賃金均等を図ろうとしています。
③年功賃金など日本的人事慣習には踏み込まず、促進しようとしています。

②や③は、欧州諸国は国や地域全体で促進されているので個別企業の枠を超えて職種ごとの賃金相場が
形成されていますが、日本では会社ごとでの取り組みを想定しており、企業間の賃金格差には触れられていません。
そのため、正規・非正規社員の格差是正が起きてしまったり、非正規社員の企業間格差など様々な問題が発生してしまうことになるのでしょう。
「同一労働一賃金」の特徴である点から、様々な問題や課題が日本にはあります。

本書では、著者の長年にわたる人事コンサルタントとしての知識・経験を踏まえ、同一労働同一賃金によって企業の人事・賃金システムはどのように変わるのか、正社員、非正規社員(派遣社員、パート・アルバイト)など、雇用形態による待遇にどのような変化が起こるかについて考察します。
正社員、非正規社員・中高年社員と若年社員や男女格差の現状・家族持ち、独身者・寿命が年々伸びていく中シニア世代の働き方・・・様々な立場において様々な問題を抱えています。
本書でいくつも述べてあり、読者に対して課題や方向性を示してくれています。

正社員か非正社員かという雇用形態にかかわらない均等・均衝待遇の確保が目的であるならば、いずれは避けて通れない要素でもあると考えられます。
「働き方改革」について懸念材料は山積みで、「これまでも取り組んできたし、今後も改善していきたい」という積極的推進派もあれば、「世間の流れだから仕方ない」という消極的推進派もあれば、「そんなのウチには無理」「政府のいうように進めたら会社が成り立たないよ」という消極派や否定派がいたりと様々です。
長時間労働は減るほうがいいけれど、生産性が高まらなければ意味はないですし、単に生産量や売り上げが減り、社員も残業代が減って収入ダウンになるだけで何もいいことはありません。
この機会に変わらなければ、少子高齢化が進む日本の労働力低下は明らかだと思います。

政治家や省庁は旗振りや法改正を行いますが、具体的に企業内で実行していくのは経営者です。
人手不足の中、推進企業に人材がシフトしていくということでもあり、多くの若者は、長時間労働の会社を敬遠するでしょう。
優秀な女性は、女性活躍に積極的な会社を希望することにもなるでしょう。

非正規社員は、同一労働同一賃金を推進する会社や正社員化を推進する会社を選ぶ傾向が強まり、なにも改善されることはないでしょう。
この問題は、生産性向上にあることは明らかであり、すべての企業にとってメリットを得られるものではありません。
女性活躍や料率支援は重要ですが、主婦の両立負担が増えるだけにならないだろうかなど…不安要素も多々あります。
非正規社員の待遇改善だけを行えば、人件費負担が上昇します。

それだけでなくても、欧米先進国に比べては収益力が低いといわれる日本企業がさらに利益を削って人件費を増やすという選択肢はとても取りづらいものです。それであれば、これまでの賃金格差を正当化する方向に企業は進むのではないでしょうか。
正社員において、総合職と呼ばれる勤務形態や、年齢・勤続や家族構成による給与決定方式が色濃く
残っている限り、非正規社員の制度改正だけでは限度があります。

2016年12月に発表された同一労働同一賃金ガイドライン案。家族手当や住宅手当、退職金についての記述はなく、均等・均衝待遇の対象項目からは除外されたかたちとなりました。
おそらく、これらを加えると人件費のインパクトがあまりにも大きく、企業側に配慮されたのでははいかと考えられます。
さらに、正社員の家族手当・住宅手当や退職金を廃止する企業が増えることを懸念したのかもしれないと考えられます。
正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衝待遇の確保が目的であるのであれば、いずれ避けては通れない要素であると考えられます。
人事・賃金制度のあり方を再構築すべきタイミングに来ているのでしょう。

これまでの日本企業のスタンダードであった人事組織の仕組みが、大きく変わろうとしており、企業経営者や人事担当者は、自社の正社員も含めた人事・賃金制度のあり方を再構築すべきタイミングに来ていることを考え、見直すきっかけとなる書籍です。
自分自身では気づかなかったかもしれない様々な問題点や、気づいていてもどのように対処、対応していいかわからなかった事柄が本書には記述されているので、読者の理解促進と、今後のキャリア選択に役立てると思います。