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書評「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」⑤
2018/05/09
「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」
著者 山口俊一
【書評】
最近、「働き方改革」という言葉をよく耳にします。
働き方改革とは、少子高齢化による生産年齢層の減少を緩和するために、労働者のニーズ、生活に即した多様な働き方の実現を目指した政策です。
2015年時点での生産年齢人口は約7500万人で、約30年後の2050年には5000万人にまで減ると推定されています。
労働力の不足が今以上に深刻化し、人口と労働者の増加、労働生産性の向上が求められることになりそうです。
出生率の上昇、女性の活躍、定年の引き上げなどに加えて、現状の労働制度の改善が必要とされます。
働き方改革では①同一労働同一賃金、②長時間労働の改善、③配偶者控除の見直し、④雇用のミスマッチ解消、⑤外国人労働者の受入れの5つを主軸にしています。
山口俊一さんが書いた『同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人』では①の同一労働同一賃金制度について、今後起こりうる変化やキャリア選択のアドバイスが綴られています。
同一労働同一賃金制度は正社員と非正規社員の賃金格差を是正するのが主な目的です。
現在、非正規労働者は労働者の約4割を占めていて欠かせない存在となっています。
ところが、ベテランのパートタイマーが正社員と同内容の仕事をして成果を上げたり、正規の新卒社員より良い働きぶりをしても固定給のため給与が低く、仕事に見合った適正な賃金を得られません。
賞与や昇給があることも少なく、不公平な点が多いとも言えましょう。
そこで、能力差がなく同じ仕事を行う場合は雇用形態で差別せず、労働価値に準じた賃金を得られるようにするのがこの制度です。
同一労働同一賃金制度は目新しい政策ではなく、職種別賃金を導入して定年を無期にしているアメリカなどでは馴染みの深いグローバルな施策です。
日本の場合、職種別賃金が普及しておらず、年功序列制度が今も残っているため、相容れない政策でもあります。
本来であれば、非正規雇用者の待遇格差を是正するために労働環境の改善と賃金水準の上昇をスムーズに行えたら安泰です。
ところが、賃上げだけを頼りに格差是正を行うと、膨大な費用が必要となり、大半の企業が赤字になります。
本書ではスーパーマーケットのイオンを例に分かりやすくシミュレーションしたうえで、企業が取りうる対応策が挙げられています。
1.正社員と非正規社員の労働内容を明確に区別する、2.従業員の削減による生産性の引き上げ、3.値上げによる生産性の引き上げ、4.正社員の賃金引下げ、これらのいずれか行うことが必要とされます。
現正規雇用者の給与を突然下げたり、年功序列制度を廃止するわけにもいかないため、無難に1の策をとる企業が多くなりそうです。
2の従業員削減は依願退職の募集に加え、AIなどの普及でオートメーション化も進みそうです。
3についてはファーストフードでおなじみのマクドナルドで値上げが実施されました。
有名な話ですが、企業収益が赤字の状況であるにもかかわらず、従業員の賃上げも行いながら、メニューの開発などに力を入れた結果、次第に黒字に回復しました。
実際は一社のみ値上げを行うと客層が遠のき、競合他社へ流れてしまう可能性が高く、企業ごとに足並みをそろえる必要があると思われます。
本書に依拠した立場をとると、しばらくは年功序列制度は維持されて、一般的には勤続年数と年齢を重ねると昇給することが予想されます。
より高い賃金水準、賞与、安定した労働環境は依然として大企業が優位です。
就職や転職を見込むのに適しているでしょう。
ところが、大企業、中小企業を問わず、生産年齢層から定年に近づきつつある50代以降は次第に年収が減少する傾向にあるようです。
年齢が少し上がったり、定年を迎えることで急に仕事の質が下がり、業務内容が大きく変わるとは思えないので、年齢を理由に給与がカットされるのは年功序列制度の宿命であると言えそうです。
近年では転職を行う人が増え、退職金制度も以前ほど機能しなくなりました。
老後に備えての準備が必要な時代にさしかかり、本書では定年後の再雇用、資産運用をアプローチしています。
中でも特に確定拠出年金制度の運用が勧められています。
毎月一定額の掛け金を積み立てし、将来的に戻ってくる制度です。
掛金に上限があり、原則的に60歳をすぎないと受け取れないデメリットもありますが、所得控除の対象であり、運用利益も非課税のため、長期的な備えとして魅力的です。
4月からは無期転換ルールがスタートします。
2013年の4月から起算して有期雇用契約を継続して5年を経過すると、契約社員の申入れにより無期で働くことができる制度です。
中には無期転換を機に正社員として登用する企業も出てくることでしょう。
また、限定社員の増加も期待されています。
仕事内容を限定し、勤務エリアや労働時間を制限することで、労働者は働きやすい環境を与えられます。
雇用形態が限定されて正社員と区別しやすいので、企業が拠出する賃金も抑えられて大変有効です。
問題視されている長時間労働の緩和にもつながることが予想されます。
しかしながら、無期転換ルールはあまり周知されていない部分があったり、有期雇用契約が5年になる前に故意に契約を打ち切られる、雇止めのリスクも少なからずあります。
そこで、結局どのようにキャリア選択を行えば良いかが論点になってきます。
最終章にも書かれていますが、省庁や政治家を中心に働き方改革の法整備が行われる中、実際に運用するのは企業の経営者であり、そのもとで雇用者は働いて賃金を得ます。
前述のように非正規雇用者の待遇改善だけを行うことは難しいため、経営者は人事制度や賃金、勤務形態の再考を行い、働き方改革に合った変革が必要となります。
正規雇用者、非正規雇用者については、経営者が取りうる対応を踏まえたうえで、将来性が高い企業を探して選択することが大切です。
女性についても同様にキャリアアップが盛んで活躍できそうな職場を見つけるのがポイントとなりそうです。
本書では経営状態、給与水準、離職率の分析の仕方が詳しく説明されています。
利益貢献の計算方法もあるので、年収から必要とされる売上高を算出してみるのも良いでしょう。
働き方改革、同一労働同一賃金制度は不確定な要素や懸念事項もありますが、労働人口減少による生産性低下や長時間労働の改善が期待されています。
多様な働き方が認められることによって、社会貢献できる人も増えることでしょう。
本書では制度の本質が分かりやすく解説されているので、参考にされてみてください。