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書評「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」①

2018/04/03

「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」

著者 山口俊一

【書評】

平成28年12月20日、働き方改革会議で政府から同一労働同一賃金ガイドライン案が発表されました。
同一労働同一賃金とは、雇用形態における不合理な待遇、差別をなくし、仕事の内容が同じであれば、賃金を均一化することです。
(独)労働政策研究・研修機構『データブック2017』のフルタイム労働者に対するパートタイマーの賃金水準(本書19頁)によると、日本のパートタイマーの賃金はフルタイム労働者の60%弱ほどです。
一方、同一労働同一賃金の制度が普及しているヨーロッパ諸国の数値は70%〜90%となっています。
日本の非正規雇用者の自給は年々上昇傾向にあり、首都圏では平均時給が千円を超えるようになりました。
しかし、先進国の中で日本の賃金水準は低く、労働対価に見合う順調な賃金が支払われるべきです。
一見このようにしてみると、同一労働同一賃金の制度はパートやアルバイトとして働く人を対象にした賃金制度であり、正規雇用者やその他の人達にはあまり関係がないように思われます。
ところが、同一労働同一賃金制度の実施により、給与が増減したり、特をする人、損をする人が現れます。
本書では同一労働同一賃金制度の施行により、具体的にどのような影響を受け、これから対策をどう講ずれば良いかを考察しています。
まず、本書によると諸外国で行われているような同一労働同一賃金制度の実現は難しいとされています。
その理由は大きく分けて三つあります。
一つ目は職種別賃金が日本に浸透していないことです。
主要先進国や欧米諸国ではこの制度が定着しているため、職務、職種の内容で給与が決まります。
日本の場合、何を基準に同一労働とし、賃金水準を定めるかは企業ごとに異なってきます。
二つ目は日本の雇用慣習です。
日本では年功や家族構成、性別など職務以外のファクターが給与に影響します。
年功序列では勤続年数や年齢に応じて昇給があり、50歳前後になると所得がピークに達します。
家族手当や配偶者控除は世帯の有無で決まり、恩恵を得られない人には不公平な扱いを受けることになります。
また、男女格差も残っています。
女性の平均年収は増加傾向にありますが、依然として男性に比べると遥かに少ないのが現状です。
女性管理職の登用も2020年に30%を目指す目標を政府が掲げていますが、民間企業、公務員ともに女性の管理職比率は目標の半分にも達していません。(本書62頁図表9、63頁図表10参照)
同一労働同一賃金制度を実施するにあたって、前述のような慣習を一斉に取りやめることは難しく、企業ごとの判断に任される部分が多いと思われます。
三つ目は人件費の不足です。
賃金格差を是正するために非正規労働者の給与水準を正規労働者に近づけると、大部分の企業が赤字になると推測されます。
人件費削減のために従業員の多くをパート、アルバイトとして雇用している企業には特に痛手となることでしょう。
そこで、いよいよ同一労働同一賃金の実施による企業側の人件費対策として、給与の増減、待遇の見直しが行われるわけです。
本書の内容を踏まえ、正規労働者、非正規労働者、これから就職する世代について考察したいと思います。
まず、正規労働者に起こりうる影響は所得の減少(或いは横ばいの常態化)です。
同一労働同一賃金の実施により、職務内容に応じて給与の引き下げが起こりえます。
また、労働時間の短縮、人員削減、賞与、退職金、家族手当などの減額或いは消滅の可能性もあります。
そこで、本書では各業界の特徴やデータに基づいた分析を行い、同一労働同一賃金の影響や今後の方向性を業界ごとに示しています。
詳しくは本書の内容を参照されたいところですが、これから生き残りやすい企業、停滞を迎える企業、賃金の行方が予見されています。
もし、仮に自分や家族の勤務先の展望が芳しくなくても、本書でも提案があるように日本独自の同一労働同一賃金制度を上手く活用する方法があります。
業務内容が類似している企業でも給与形態や労働条件が異なる場合もあるので、自分に有利になる企業を選び、転職を行うことも一つの手段です。
老後に向けて将来的な準備をしておくことも不可欠です。(詳しくは本書第5章参照)
次に非正規労働者です。
労働契約法の改正で2013年4月から今まで有期であった労働契約を継続して5年経過すれば、労働者は無期労働契約を結べることになりました。
2018年4月から無期契約社員に転換する人が増える見込みです。
ところが企業側に委ねられている部分が大きく、労働者には有利でも不利でもあるといえます。
この法制度は義務付けのため、五年間継続した契約の更新があれば定年まで無期限で雇用してもらえます。
しかし、五年経たずに企業側から契約の終了を持ちかけられることも考えられます。
また、無期契約社員になれても、契約社員という立場、待遇を改善してもらえるかは企業の裁量次第です。
中には晴れて正社員や限定社員に転換できることもあります。
勤務地や勤務時間を限定した勤務形態をとる限定社員の増加は、人件費を抑えたい企業側、働きやすい環境を求める労働者にとっても望ましいと言えるでしょう。
しかしながら、無期労働契約を結ぶにあたって、5年間の長い歳月が必要で不安定であること、待遇の改善が必ずしも行われないデメリットがあることは確かです。
本書に載っているような正社員への登用に積極的な企業や採用人数の多い大企業を選択することが必要となりそうです。
派遣社員については8年間契約の更新を続けると理論上は無期契約社員になることができますが、契約締結までの期間がさらに伸び、先ほどと同様の理由で厳しくなると思われます。
そして、これから就職する世代についてです。
正規労働者の場合と同様に給与の低下(或いは横ばい化)、労働条件、待遇の悪化と合わせて年金負担の増加や老後の不安などが予想されます。
本書の意見に賛同する運びとなりますが、大企業や子会社よりも親会社を選択することで賃金水準が高く、労働環境にも恵まれやすくなりそうです。
そこで、面白いデータがあります。
東大、京大、慶應大、早稲田大、東工大、一橋大の上位6大学の2018年度卒業予定の学生を対象にした就職人気企業ランキングは以下のようになりました。(プレジデントオンライン、外資就活ドットコム調べ)
1位マッキンゼー・アンド・カンパニー、2位三菱商事、3位ボストンコンサルティンググループ、4位ゴールドマンサックス、5位三井物産、6位電通、7位伊藤忠商事、8位P&Gジャパン、9位野村総合研究所、10位Googleです。
全体的な特徴として外資系企業や子会社を持つ大企業であることが分かります。
能力や結果を重視した雇用形態を採用している企業が多く、初任給から高収入を期待でき、離職率も低く魅力的です。
その反面、企業が求める人材として不適であったり、結果を残せない場合は辞めざるをえない厳しい一面もありますが、同一労働同一賃金の理にかなっているとも言えます。
本書の内容に沿った企業選択が上位大学の就職活動で実践的に行われていると言っても過言ではなさそうです。
最後に、今日本は同一労働同一賃金制度の過渡期であり、2020年にはオリンピックの開催も予定されています。
今までの人事体制や賃金制度が大きく変わり、労働力も今以上に必要とされることでしょう。
正規労働者、非正規労働者の賃金格差や待遇の均衡にあたり、課題や懸念も多いことかと思われます。
人事コンサルタントを長年にわたり勤めてきた著者ならではの知識、ノウハウが詰まった本書、『同一労働同一賃金で給料の上がる人、下がる人 あなたの収入はどうなるか』はこれからの職業選択、キャリアアップにつながる1冊です。