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書評「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」③

2018/04/17

「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」

著者 山口俊一

【書評】

●はじめに

「働き方改革」、「同一労働同一賃金」という言葉を聞いたことがあっても、
他人に説明できるという自信のある方はどのぐらいいるのでしょうか。
本書は、2021年頃に実施予定の「同一労働同一賃金」に対して基本的な考え方を解説しつつ、
長年、人事コンサルタントとして経験を積んだ著者による対策方法・アドバイスなどを盛り込んだ一冊になっています。
同一労働同一賃金が策定された場合に、「どのような対策を行えばよいか」と悩んでいる企業の方や、
「今後自分の給料はどうなるのか」と不安に感じている労働者の方に対する問題解決の糸口となることでしょう。

 

●著者情報と書籍概要

著者の山口俊一氏は、人事コンサルタントとして25年を超える経験があります。
主な著書は「社員300名までの人事評価・賃金制度入門」、「成果主義を自分の味方につける法」など。
本書は、プレジデントオンラインおよびJIN-JOUR掲載記事に加筆・修正を加えています。
第1章~第8章に分かれていて合計211ページありますが、平易な文章で書かれているため読みやすく、
普段ビジネス書をあまり読まないという方でも抵抗感なく読めるのではないでしょうか。

 

●内容紹介

特に読んでいて私が印象的だと感じた部分について3点を抜粋してご紹介します。

 

その1

(前略)仮に配偶者二万円、子ども一人につき五千円の会社なら、
子ども二人の世帯主には合計三万円の家族手当が支給されることになります。
年間の平均昇給額が五千~六千円である昨今、いくら独身者が頑張っても、三万円の差を埋めるのは並大抵のことではありません。

(第1章「同一労働同一賃金って、どういうこと?」p4 日本の雇用習慣に横たわる給料格差より引用)

 

第1章ではなぜ同一労働同一賃金が必要なのかという点に焦点を当てて、
日本と世界の雇用形態についての情報がまとめられています。
特に長年続いた日本独特の雇用形態について触れているのですが、
その中でも気になった点が独身者と家族持ちの給料格差です。

私自身、独身正社員だった前職で「独身の方は私たち家族のために税金を払ってくれてありがとう」と
面と向かって先輩に言われたことがあるので(今思うとひどい話ですね・・・)
この給料格差の話には、とても実感をもちました。

このような例を出しながら、なぜ同一労働同一賃金が必要とされているのかが解説されているので、
時間がなくて本を読む暇がないという方は、最低限第1章だけでも目を通せば、
制度の概要から問題点に至るまで、必要な情報を理解することができるのではないでしょうか。

 

その2

(前略)多くの会社では、就業規則などで「副業禁止」が謳われているからです。
しかし、この規則は、「副業することによって、競合他社への情報漏えいや疲労などにより本業に支障が出る」ことを防ぐことが主な目的でした。
(中略)将来的には副業禁止という発想自体が薄れていくと考えられます。

(第4章「働き方改革に要注意」p107~108 ブームに乗るな!フリーランスという働き方の落とし穴 より引用)

本書の発行は2017年11月10日ですが、同月の20日には、厚生労働省が働き方改革の一環として
正社員の副業や兼業を後押しするためのガイドライン案を有識者会議に提示しました。
将来的に労働人口が加速度的に減少していく日本では、やはり副業を解禁して自由な働き方を提案しなければ
労働人口を確保することが困難になっていくのでしょう。

第4章では、フリーランスという働き方についての問題点を複数考察しています。
会社を退職してのびのびとフリーランスで働きたい!という夢を持っている方は、
まずはこの章を読んでいかに落とし穴が多い働き方であるかを確認した方が良いでしょう。

 

その3

厚生労働省は毎年、新規学卒者の離職状況を発表しています。
発表後には「新卒者の三割以上が、入社三年以内に退職」といったニュースが話題になります。
ところが、調査結果をよく見てみると、この三割という数字は大学卒業者の総平均を示しているに過ぎません。
(中略)高卒者であっても、大企業に入社すれば、四人に一人程度しか三年以内に離職しないのです。
(中略)逆に考えれば、中小企業やサービス業であっても、労働時間や組織風土改善の政策を打つことで、
若者の定着率を高めることが可能であるともいえます。
賃金水準を引き上げるのは難しくても、「賃金条件」は離職理由の最上位にはなっていません。
企業にとっては、定着率改善のために努力するポイントが見えてきたのではないでしょうか。

(第8章 「結局、どうしたらいいの?」p189~192 新卒者、就職先の選び方 より引用)

 

第8章では、これまで記載していた内容の総論となっています。
特にデータを使用した上記のような視点は非常に興味深く感じました。
中小企業で起こりがちなマンパワー不足は、新卒者の離職率問題を詳しく調べることで解決できるかもしれないのです。
著者は続けて、財務状態に関して経営状態を把握することが重要だと指摘しています。
忙しい就職活動の合間に経営状態について調べるのを負担と感じる方もいるとは思いますが、著者はこのように記載しています。

日本での同一労働同一賃金が、業界や職種単位ではなく、一企業内での待遇是正を前提としている以上、
どの会社に所属するか。就職や転職の際には、生産性が高く、給与水準が高い企業を選択することが重要なのです。
(第八章 「結局、どうしたらいいの?」p198 若手社員・ミドル社員は、生産性の高い会社を施行する より引用)

 

●まとめ

「働き方改革」、「同一労働同一賃金」という言葉を聞いたことがあっても、
どのような問題点があるのかを詳しく説明できなかった私にとって、この本はとても役に立ちました。
自分自身がどのような立場で働いているのか、今後様々な制度ができた場合に、
どうやって労働者としての立場を守っていくのかを考えさせられる本でした。
自分の身は自分で守るという意識を強く持たなければいけない時代に突入していくのかもしれませんね。

今回ご紹介した内容以外にも、女性・高齢者・正社員・非正規・管理職・社長などの様々な立場の方を例に挙げて
収入はどう変化していくのかという予想がまとめられています。
これから訪れる様々な変化に対応できるように、仕事に携わっている方々全てに読んでいただきたい本です。