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書評「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」②
2018/04/03
「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」
著者 山口俊一
【書評】
2017年11月10日第1版発行された書籍「同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人 あなたの収入はどうなるか?」。
著者の山口俊一氏は、人事コンサルタントとして25年超、約500社の人事・賃金制度改革を支援してきました。
一部上場企業から中堅・中小企業のあらゆる業種・業態の人事制度改革コンサルティングを手がけています。
著者の豊富な知識と経験から安倍内閣が掲げる「同一労働同一賃金」を実現しようとする際に起こりうる問題を細かく取り上げています。
「同一労働同一賃金」を実現するには、非正規社員の優遇改善だけでなく、人事・給与制度のあり方を再構築する必要があり、今まさにそのタイミングが訪れようとしています。
著書では「同一労働同一賃金」の実現に向けた法改正や厚生労働省の調査結果も紹介。
各調査結果から分析された現場の本音は読者も共感・納得できる内容が多く、より身近な問題として理解しやすく解説されています。
この著書では細かな問題に対しての対策や明確な結論が記されているため、読者自身が自分の現在の立場や将来に備える具体的な対策を検討しやすいことが特徴なっています。
第1章では「同一労働同一賃金」について分かりやすく解説。
日本政府が掲げる「同一労働同一賃金」は正社員と非正社員の賃金格差をなくすことが目的。
それは、世界各国で常識とされている真の意味の「同一労働同一賃金」とは異なる部分が多いのです。
日本の常識とされてきた年功序列型の賃金体系を欧米など世界で主流となっている成果型の賃金体系と比較。
その上で日本企業に職種別賃金が浸透しない理由をこれまでの日本企業の賃金制度や雇用に対する考え方も踏まえて詳しく解説されています。
2016年に公開された「同一労働同一賃金ガイドライン」からも、今後起こりうる問題を取り上げています。
第2章では非正社員へのインパクトとして企業に必要となる対策を提示しています。
国際的に比較してもフルタイム労働者に対するパートタイマーの賃金割合が低い日本。
多くの正社員がパートタイマーの賃金が実際の労働に対して安いと感じる現状があるにも関わらず、賃金格差が是正されない理由も解説しています。
また、「同一労働同一賃金」を実現する際の企業の人件費コントロール方法も紹介されています。
厚生労働省が進める「正社員転換・待遇改善実現プラン」。その切り札とされている「限定正社員」。
この限定正社員制度の導入ポイントも提示。
社会意識の多様化、ワークライフバランス、女性活用など「限定正社員制度」を後押しする社会環境は高まり、導入する会社も増えると予想。
しかし、その制度導入には様々な問題が複雑に絡むため、運用の難しさも指摘しています。
第3章では正社員へのインパクトとして中高年社員と若年社員、女性社員の現状や今後の方向性を解説しています。
現在、男性は中高年が高い賃金水準を維持しています。その一方で、優秀な中高年女性には報われない状況が続いているのです。
一見、成果主義賃金が主流になっているように見えていても、実はまだ年功要素が残る企業も少なくない。
そんな現状も65歳までの雇用延長に加え、「同一労働同一賃金」により女性社員の引き上げや非正規社員の待遇改善が進むと人件費抑制が必要になります。
高賃金の四十歳〜五十歳前後の男性正社員が、その人件費抑制のメインターゲットになると著者は予測しています。
男女格差に着目すると、将来的には大企業や公務員の内部で「望んでも出世できない男性」と「望みもしないのに出世させられる女性」が多く出現すると印象的なフレーズで表現しています。
最近よく耳にする「働き方改革」や「寿命百年時代」について記載されている内容は、私たち読者が一度は真剣に考えておかなければならないテーマです。
第4章の−「働き方改革」に要注意− ではその対象外となる人たちや対象者が長時間労働是正で収入を減らさない方法も成功例を挙げて説明しています。
テレワークや在宅勤務、フリーランスの働き方のメリットとデメリット。
さらに、有効に活用できる職種やどのような人に向いているのかについても伝えています。
第5章の−寿命百年時代の人事のあり方−では退職金や六十五歳までの継続雇用と給料について解説されています。
六十歳以降の雇用延長社員に対する処遇改善実例やシニア社員制度の再検討方法も具体的に紹介。
また、退職金や老後の備え方など企業と個人が様々な制度を有効に活用できる提案がなされています。
第6章では意外と知らない経営者や役員の給料を解説。
社長の給料は何で決まるのか?はだれもが興味を持つところです。
独立性の高い社外取締役の需要が高まる中、その報酬水準や報酬相場を予測しています。
第7章の−業界別の人事環境と方向性−では各業界が抱える問題と「同一労働同一賃金」の実現性や生じるであろう問題が解説されています。
日本産業の縮図ともいわれる製造業の「バランス型」の人事・給料を図表を基に説明。
従来の横並び主義が強い日本の特徴についても触れています。
「同一労働同一賃金」の流れで今後、欧米型の職務給に変わると、職種ごとの賃金格差が拡大すると予想。
気になる賃金水準の上がる職種と下がる職種についても記されています。
卸売業の生き残り方。
小売業の低賃金構造の改善。
IT業が抱える将来の高齢化への課題。
若者の業界離れが深刻な建設業界。
各業界の現状や課題を知ることができる、日本の社会を学べる非常に興味深い内容の章です。
最終章の第8章では−結局、どうしたらいいの?−として、前章までの問題などを踏まえて、変化する社会への柔軟な対応策を提案しています。
パート社員へは待遇改善に伴い、パート社員自らが必要となる税金や年金対策を解説。
これから就職活動を行う学生やその家族には就職先の選ぶ際に参考にすべき情報を提供。
若手社員・ミドル社員には転職する際にやるべきこと・知っておくべき情報も細かく解説。
さらに、五十代以降には寿命百年時代へのキャリアプランの勧め。
女性社員へは活躍できる企業の探し方。
そして経営者には「働き方改革」に対応した会社への変革。
このようにそれぞれの立場で結局のところ、どうしたらよいのか?を明確に解説していくれています。
この著書は、人事制度や賃金制度、政府の方針などを取り上げているため、難しいテーマに感じる・・という読者も多いはず。
でも、読者がより身近な問題として理解しやすいよう表現が工夫されています。
中には初めて聞く制度もあるでしょう。
その聞きなれない制度も活用できれば得をする、知らなければ損をするのです。
読者自身が自分の現在の立場や将来に備える具体的な対策を検討しやすい、いわば大人向け社会の教科書です。
日本で働くすべての人に一度は読んでいただきたい一冊です。