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「同一労働同一賃金」最高裁判決で考える企業対応の方向性

2020/10/18

~大阪医科大、メトロコマース、日本郵便判決で見えてきた、賞与、退職金、家族手当、休暇等の扱いについて~

2020年10月13日には、大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)、メトロコマース裁判。続いて10月15日には、日本郵便裁判3件の最高裁判決が相次いで出されました。

そこで、人事コンサルタントの立場から、これらの最高裁判決から見えてきた司法判断の特徴と、企業が対応すべき方向性について考えてみたいと思います。

そもそも、今回の裁判はいずれも、正社員と非正規社員との待遇格差が、労働契約法20条「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止」に当たるかどうかが争われたものです。この法律は、いわゆる同一労働同一賃金について定めた、パートタイム・有期雇用労働法8条に引き継がれて、大企業は、今年2020年4月より、中小企業も来年2021年4月より適用されることになりました。

 

【改正前】労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

【改正後】パートタイム・有期雇用労働法第8条(不合理な待遇の禁止)

事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

 

1.賞与に関する最高裁判決(大阪医科大学)
まずは、賞与の支給有無が争点となった大阪医科大学の裁判。大阪医科大学(現、大阪医科薬科大学)の秘書業務に従事していたアルバイト職員が、正職員との待遇格差は違法として、不合理な格差是正を訴えた裁判です。

2019年2月15日の大阪高裁での判決ポイントは、以下のようなものでした。

・賞与が、正職員全員に年齢や成績、大学の業績に関係なく一律に支給されていた点を重視し、アルバイト職員に全く支給しないのは、不合理と判断した。

・また賞与水準については、職務と責任の違いや、契約職員に正職員の80%の賞与が支払われていることから、正職員の60%を下回る格差は不合理とも判断した。

・一方、正職員との基本給格差などについては、一定の相違が生じることは不合理とはいえない、とした。

 

これに対して、2020年10月13日の最高裁判決では、以下のように全く異なる判断を下しました。 

賞与の支給も「不合理」に当たる場合はあり得る。

賞与の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)で検討すべき。

同大学の賞与は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的もある。

・対象アルバイトの業務は相当に軽易で、正職員との一定の相違があり、人事異動・配置転換にも差がある。また、正職員への段階的登用制度があることは、「その他の事情」に当たる。

職務内容を考慮すれば、新規採用の正職員との年収比が55%程度であることなどを踏まえても、賞与不支給は不合理とまでは言えない。

賞与に関する最高裁判決を受けての方向性
今回の最高裁判決では、同一労働(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情)であるかが重要。明らかに相違があれば、賞与不支給も不合理とは言えない、という判断が出されました。

ただし、今回の判決は、あくまでこの事案に対する判断で、賞与不支給が全て正当化されたわけではありません。また、「同一労働同一賃金ガイドライン」にも、労働者の貢献に応じて支給する賞与であれば、正社員と同一の貢献であれば同一賞与、貢献差がある場合には、その相違に応じた賞与支給が謳われています。

企業として、人件費増を極力抑えるという観点からは、

方向性1

有期社員・パート社員に賞与を支給しないのであれば、自社における賞与支給の目的及び、業務内容や配置の変更範囲を明確に区分・説明できるようにし、社員登用制度も整備しておく。

方向性2

有期社員・パート社員の賞与を一定水準は支給する。(その場合、正社員との賞与水準差を説明できるよう、賞与支給基準を明確に区分しておく。)

という選択肢になるでしょう。

2.退職金に関する最高裁判決(メトロコマース)
次に、退職金の支給有無が争点となったメトロコマースの裁判。東京メトロ子会社であるメトロコマースで、売店勤務の契約社員として勤務していた4人が、正社員との待遇格差は不当として訴えた裁判です。

2019年2月20日、東京高裁での判決ポイントは以下のようなものでした。

・長期間勤務した契約社員に退職金の支給を全く認めないのは不合理として、4人のうち10年程度勤務していた2人に対する退職金の支払いを命じた。

・退職金水準については、正社員と同じ基準で算定した額の少なくとも25%とした。

・また、住宅手当、勤続10年褒賞、早出残業手当の割増率についても、正社員との格差は不合理と判断した。

・一方、正社員とは配置転換の有無などの労働条件が異なるとして、賃金や賞与などの格差は容認した。

これに対して、2020年10月13日の最高裁判決では、以下のように全く異なる判断を下しました。

退職金の支給も「不合理」に当たる場合はあり得る。

退職金の性質や支給目的、労働契約法20条の諸事情(業務内容や配置転換の範囲など)で検討すべき。

同社の退職金は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署で継続的に就労が期待される正社員に支給されている。

・正社員は欠勤補充や早番・遅番があり、複数店舗統括などの業務に従事することがある反面、契約社員は売店業務のみで、業務に一定の相違がある。

・正社員は配置転換があるが、契約社員は勤務場所の変更はあっても業務に変更がなく、業務や配置変更の範囲にも一定の相違がある。また、正社員への段階的登用制度があることは、「その他の事情」に当たる。

・契約社員も原則契約更新、65歳定年など短期雇用前提とは言えず、勤続年数が10年前後であることを踏まえても、退職金不支給は不合理とは言えない。

退職金制度は、有無・支給方法も含め企業ごとに様々で、会社側の裁量余地が比較的大きい。

 

退職金に関する最高裁判決を受けての方向性
今回の最高裁判決では、同一労働(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情)であるかが重要。明らかに相違があれば、退職金不支給も不合理とは言えない、という判断となりました。

ただし、今回の判決は、あくまでこの事案に対する判断で、退職金不支給が全て正当化されたわけではありません。

しかしながら、退職金制度については、将来の退職金原資積み立ての必要性など様々な事情から、会社側の裁量余地が比較的大きい項目であるという認識も示されています。

人件費増を極力抑えるという観点からは、

方向性1

有期社員・パート社員に退職金を支給しないのであれば、自社における退職金支給の目的及び、業務内容や配置の変更範囲を明確に区分・説明できるようにし、社員登用制度も整備しておく。

方向性2

有期社員・パート社員の退職金を一定水準は支給する。(長期雇用者という観点から、一定勤続年数経過者や無期雇用転換者に限定することも検討する)

という選択肢になるでしょう。

3.扶養手当(家族手当)、休暇等に関する最高裁判決(日本郵便3件)
そして、扶養手当(家族手当)や休暇等が争点となった日本郵便の裁判3件。集配・出荷業務などの契約社員が、正社員と同じ仕事内容にもかかわらず、手当など労働条件の格差は違法として訴えた裁判です。

2018年2月21日、大阪地裁での判決ポイントから見てみましょう。

・正社員と職務内容や責任に差はあるが、扶養手当、住居手当、年末年始の勤務手当の不支給は不合理な労働条件の相違に当たる。

・扶養手当については生活保障給の性質があり、職務内容にかかわらず、家族を扶養する負担は正社員と変わらず、契約社員に支給されないのは不合理とした。

・住居手当は、転居を伴う転勤がない一般職の正社員にも支給されており、契約社員に支給されないのは不合理とした。

その後、日本郵政グループは、(転居を伴う転勤のない)一般職正社員の住居手当廃止を発表することになります。

ところが、2019年1月24日の大阪高裁判決では、一転して次のような判断に変わります。

・一審の大阪地裁が違法と判断した扶養手当の格差について、「長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当」であり、「契約社員は原則として短期雇用が前提」のため容認する逆転判決を出した。

・また、年末年始勤務手当などについては、契約社員の中でも雇用期間が5年超の者には支給すべき、という対象者基準を新たに示した。

そして、今回2020年10月15日の最高裁判決では、再逆転となる判断が下されました。

・本件契約社員は、特定業務のみに従事、昇任・昇格は予定されず、評価基準も正社員と異なる。
また職場・職務内容限定で、人事異動は行われない。正社員登用制度は設けられている

・このように、職務内容、配置変更の範囲、その他の事情に相応の相違があることを考慮しても、

<扶養手当>

扶養手当は、生活保障や福利厚生を図り、特に扶養親族保有者の継続雇用確保が目的。

契約社員も、扶養親族があり、相応に継続的勤務が見込まれるなら、支給するのが妥当。
(契約期間はあるものの、契約更新を繰り返して勤務する者が存在し、継続勤務が見込まれる)

<年末年始勤務手当>
・年末年始(12/29~1/3)の最繁忙期に業務従事することへの対価。業務内容や難易度にかかわらず支給されており、契約社員に支給しないのは不合理。

<夏期・冬期休暇>
・心身の回復を図るのが目的。勤続年数の長さによる取得可否や日数差もない。
・契約社員も繁忙期限定の短期間勤務ではないため、与えられないのは不合理。

<有給の病気休暇>

・私傷病で勤務できない者に、生活保障を図り、治療に専念させることで継続雇用確保が目的。

・契約社員も労働契約更新により相応に継続的勤務が見込まれ、日数の相違はともかく、無給の休暇のみしか与えられないことは不合理。

<祝日給>
・祝日・年始勤務に支給される。慣例に沿って特別休暇が与えられる時期の勤務に対する代償。

・最繁忙期の労働力確保の観点から、契約社員に特別休暇がないことに理由があるとしても、年始勤務に対応する祝日割増賃金を支給しないのは不合理。

※住居手当については、以下の高裁判決を上告不受理により確定。
住居手当の趣旨が住宅費用の補助であり、比較対象の正社員は転居を伴う配置転換の予定がなく、契約社員も住宅に要する程度は同じであり不合理。

扶養手当(家族手当)、休暇等に関する最高裁判決を受けての方向性
今回の最高裁判決では、同一労働(労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情)でないとしても、手当や休暇の目的に照らして格差が妥当でなければ不合理、という判断となりました。

賞与や退職金は会社によって様々な目的が考えられるが、手当や休暇は目的が特定しやすく、同一労働でないにしても、その目的に沿った支給が求められるということでしょう。

扶養手当(家族手当)、住居手当(住宅手当)など、生活保障関連手当については、短期雇用(継続的勤務を見込まない)や生活費負担が異なるなどの明確な理由がない場合には、

方向性1

  契約社員やパート社員(定年再雇用者は除く)も支給対象とする。

方向性2

  正社員の手当を廃止(他の給与項目に吸収など)する。

また、休暇や出勤手当については、

その期間限定の短期契約者などを除き、契約社員やパート社員も支給(有給)対象とする

という方向性になりそうです。

4.大阪医科大学、メトロコマース、日本郵便 最高裁判決(2020年10月)の比較

今回の最高裁判決を整理してみると、以下のようになります。

5.賞与、退職金、残された疑問

一昨年2018年6月1日に出された長澤運輸とハマキョウレックスの最高裁判決と合わせ、今回の判決は「同一労働同一賃金」に関する司法判断において、大きな方針を示したことになるでしょう。

基本給、賞与、退職金といった、人件費の多くを占める要素については、これまでのところ「格差が不合理」とまでは判断されていません。一方で、手当や休暇については、「格差が不合理」と判断される可能性が高くなり、企業も早急な見直しを迫られそうです。

賞与、退職金については、コロナ禍における企業収益の落ち込みに対して、幾分かの配慮があったのかもしれません。特に非正規社員比率の高い、小売・飲食・宿泊業などの収益悪化が激しい昨今、賞与や退職金を改善すべきとなると、事業として成り立たないケースも増えるでしょう。

しかし、賞与や退職金の最高裁判決に関しては、次のような疑問も抱かざるを得ません。

① いずれの裁判も改正前の労働契約法20条が判断基準になっており、今年より改正されたパート・有期雇用労働法の「基本給、賞与その他の待遇のそれぞれで判断」という条文で争えば、異なる結論となるのではないか?

② 厚労省の同一労働同一賃金ガイドラインに明記された「賞与が会社業績貢献で支給される場合、正社員と貢献が同一なら同一支給、一定の違いがあるなら相違に応じた支給をしなければならない」という記述などは、全く無視していいのか?(「賞与の有無」は、厚労省の法改正ポスターにも待遇差の例として明記されている。)

③ 派遣社員の「労使協定方式」では、賞与、退職金まで盛り込んだ賃金額となるよう行政指導したこととは、矛盾しないのか?(派遣社員と契約社員、パート・アルバイト社員の新たな格差問題ではないか?)

④ そして、今年4月からの法改正に合わせて、非正規社員の「賞与」や「退職金」を整備した大企業は、元に戻すのか?(今度は、不利益変更の問題が発生。また、改正後のパート・有期労働法で、訴訟を起こされた場合のリスクは残ったままとなる。)

⑤ そもそも、安倍前首相が「同一労働同一賃金を実現する」「非正規(社員)という言葉をなくす」と大見得を切った働き方改革の流れと逆行するのではないか?(企業側が非正規社員に対して継続勤務に制限を設けたり、業務や責任の差を拡大させる方向へ舵を切るのではないか?)

やはり、厚生労働省を中心に政府が推し進めてきた「同一労働同一賃金」のゴールイメージと、今回の最高裁判決には少なからずギャップがあるように思われます。加藤勝信官房長官も、判決内容に対する具体的言及は控えたものの、「政府としては引き続き、同一労働同一賃金の実現に向けた取り組みを進めていきたい」とコメントしています。

ただ、政府としても今強力に格差是正を進めれば、不況業種への更なる企業収益悪化要因となるだけでなく、非正規社員の失業率上昇(既に急速に上昇中)を招く可能性も高い。すると、結果として格差拡大につながるというジレンマを抱えています。

企業としては、各社の収益状況や組織構成・課題によって、手当や休暇など最低限の改善に留めるミニマム対応から、積極的に正社員化や基本給・賞与・退職金改善まで行うマックス対応まで、大きく方針が分かれることになりそうです。
 

 

山口 俊一

執筆者

山口 俊一 | 株式会社新経営サービス 社長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、900社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。