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ジョブ型人事と同一労働同一賃金

2021/03/10

ジョブ型人事の導入が、大企業を中心に拡大しています。雇用や人事制度を、社員ごとの年功や能力といった「人」基準から、職務や役割に応じた「仕事」基準に転換しようという流れです。

これまで、日本で同一労働同一賃金が進まない理由の1つとして、「人」基準の人事賃金制度であることが言われてきました。たとえば、製造現場で同じような仕事をしていても、年功賃金の下では、ベテラン社員が若手社員の2倍の給与というケースも珍しくありません。このような場合、非正規社員が同様の仕事をしていたとして、どの正社員の給与に合わせるべきか分かりません。
また、社員ごとの仕事範囲を明確にしないため、同一労働であるかどうかの判定があいまいで、何に対して賃金を合せるべきか基準が定まらないというのです。

一方、ジョブ型人事制度では、職務ごとのジョブディスクリプション(職務記述書)が雇用や処遇の前提となります。これまで大企業中心に当たり前に使われてきた「総合職」という考え方も、否定されていくことになります。営業職なのか経理職なのか、同じ職種でも主任クラスなのか係長クラスなのかによって、仕事の役割や責任、業務内容や求められる経験やスキルが、ジョブディスクリプションとして明示される。それによって採用や配置、賃金決定が行われるのです。既に新卒採用にまでジョブ型雇用を行っている会社では、職種によって初任給が異なることも珍しくありませんし、むしろ当然といえます。大卒や高卒といった学歴や年齢ではなく、どの仕事に就いてもらうのかで給与が決まるからです。

さて、2021年4月からは、いよいよ中小企業にも同一労働同一賃金法制(パートタイム・有期雇用労働法)が適用されます。
今回の法改正では、自社の正社員と比較し、契約社員やパート社員といった非正規社員が、以下の3つの観点で、同一労働かどうかが判断されることになります。

 ①職務の内容(業務の内容 + 責任の程度)
 ②異動の範囲(職務の内容・配置の変更範囲)
 ③その他の事情(「成果、能力、経験」「労使交渉」「定年後再雇用者」「正社員登用」など)

そして、①②が同じであれば均等(同じ基準・水準)に、異なる場合でも①②③を見て均衡(不合理でないバランスのとれた状態)に処遇しなければならない、というのです。

ここからが本題です。正社員が「総合職」であれば、ある時点の①職務内容がたまたま非正規社員と同じであったとしても、人事異動(職種や職場)の可能性があり、②異動範囲が異なるため、同一労働ではないということになります。すると、基本給や賞与・退職金など中心的な処遇項目において、企業が同一賃金にする必要性は薄れます。

ところが、ジョブ型人事が導入されると、正社員の職務が特定され、転勤や異動についても制限されることになります。すると、②異動範囲で差を設けにくくなりますので、純粋に①職務内容(業務の内容+責任の程度)で比較される傾向が強まりそうです。

では、ジョブ型人事が拡大すれば、同一労働同一賃金が浸透するのでしょうか?

確かに、正社員内での賃金については、同一労働同一賃金に近づいていくでしょう。何といってもジョブ型人事制度では、「仕事」基準で処遇を決めることが軸となります。これまでの年功給や能力給といった「人」基準の賃金から、「どんな仕事か」「どんな役割責任か」で決まる職務給や役割給に移行するからです。

しかし、法改正の目的である「正社員と非正規社員の待遇格差是正」がより加速するかどうかについては、何とも言えません。企業としては、正社員と非正規社員の役割や責任を明確に区分することで、正社員と契約社員やパート社員の①職務内容を、切り分けていくことを検討するでしょう。すると、同一労働同一賃金は実現したとしても、必ずしも格差是正につながらない。しかも、仕事区分や責任範囲を明確にすることで、これまで以上に、非正規社員の業務経験や能力開発が滞ることも考えられます。

たとえば、あるスーパーマーケットで、接客・レジ業務で採用されたパート社員でも、これまでなら意欲や能力があれば、在庫管理や商品発注、新人指導まで業務拡大していたとします。ところが、商品発注や新人指導は正社員の仕事という職務区分となれば、パート社員が新しい仕事にチャレンジする機会が減少するでしょう。もちろん、商品発注や新人指導までもパート社員の職務にしてしまえば解決するのですが、今度は「それなら、正社員にしか発生しない仕事や責任ってなんなの?」という問題が出てきます。

ジョブ型人事と同一労働同一賃金。確かに相性はいいのですが、とりわけコロナ禍で企業収益の回復がおぼつかない小売・飲食・サービス業などでは、年功賃金是正による人件費抑制の手段のみに使われる可能性も否定できません。企業にとっては、近視眼的な人事施策により、社員からの不信を招いてしまっては、本末転倒です。

ジョブ型人事には、役割や期待成果を明確にすることで、「社員の生産性や専門性を高めやすい」「多様な志向やスキルを持つ人材を確保しやすい」といったメリットがあります。他方で、これまで日本企業の多くが、「人」基準の人事制度を選択してきたことも事実です。本当に自社にとって必要なしくみなのか、また自社で構築・運用できるのか、十分な議論を重ねた上で判断されることをお勧めします。

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山口 俊一

執筆者

山口 俊一 | 株式会社新経営サービス 社長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、900社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。