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同一労働同一賃金「抜け穴」問題

2019/07/04

同一労働同一賃金「抜け穴」問題の考え方

働き方改革関連法が、続々と施行されます、同一労働同一賃金の導入に関しても、大企業は2020年4月から、中小企業でも2021年4月から適用となります。

中小企業の定義(これ以外は大企業)

業種 資本金
(または出資金)
または 常時雇用労働者数
小売・飲食業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

法律で決まったことについては、企業は必要な対策を講じなければなりません。
ただし、対策を考える前に、人事担当者として頭に入れておいていただきたい、いくつかの雇用環境や周辺の法律について、触れておきたいと思います。

 

雇用形態別の実態と傾向

こちらの表は、全労働者に占める雇用形態ごとの割合です。約25年前は「正社員8:非正規社員2」という割合でしたが、現在は「正社員6:非正規社員4」。しかも、女性に限定すれば、非正規社員の割合は56%と、半数を超えているのです。

 

2018年 雇用形態別役員を除く雇用者割合

正規の職員・従業員 非正規の職員・従業員 非正規の職員・従業員の内訳
パート アルバイト 労働者派遣
事業所の派遣社員
契約社員 嘱託 その他
男女計 62.2% 37.8% 18.5% 8.1% 2.4% 5.2% 2.1% 1.4%
77.8% 22.2% 4.0% 7.5% 1.7% 5.2% 2.5% 1.3%
44.0% 56.0% 35.3% 8.8% 3.3% 5.3% 1.7% 1.5%

労働力調査(総務省統計局)より

 

非正規社員のなかでは、パート・アルバイトが最も多く、その次に契約社員となっています。定年退職後の再雇用者(定年再雇用者)は、ほとんどが嘱託に含まれており、男性に限定すれば、派遣社員より多くなります。
派遣社員は、意外と少なく、2.4%となっています。派遣社員に関しては基本的に人材派遣会社が考える問題ですので、人事担当者は、主として自社のパート・アルバイト、契約社員、定年再雇用社員について、正社員と比較した場合の同一労働同一賃金対応を考えなければなりません。

 

雇用形態別の賃金水準

上記の内容を押さえたうえで、雇用形態別の賃金水準をみてみましょう。
正社員、フルタイム契約社員、パートタイマーについては、賞与も含めて時給を算出しています。

雇用区分 平均時給
(賞与込み)
対比
(パートを1.0とする)
正社員 2,469円 2.22
フルタイム契約社員 1,495円 1.34
パートタイマー 1,112円 1.00
派遣労働者(賃金) 1,440円 1.29
派遣労働者(派遣料金) 2,108円 1.89

厚生労働省 平成28年賃金構造基本統計調査、労働者派遣事業報告書より算出
派遣労働者は、労働者派遣事業の有期雇用派遣労働者

パートタイマーの時給を「1.0」とした時の、対比に注目してください。
この表の中の「正社員」には管理職も含まれているので、非管理職社員だけに絞ると、大体2,000円強と考えてよいでしょう。つまりおおまかにとらえると、国内の平均的な企業では、次のような賃金水準になっていることがわかります。

・パートの時給は、正社員の半分
・フルタイム契約社員や派遣社員の時給は、正社員の7割ほど

企業が自社の同一労働同一賃金を考えるということは、この「半分」や「7割」に正当性があるのかどうかを考えることなのです。
企業の経営者や人事担当者は、同一労働同一賃金導入の準備として、自社の雇用形態別に時給を割り出しておいてください。
なお、上記の表の全国平均の金額には、退職金は含まれていません。もし今後、非正規社員に対する退職金支給が求められることになれば、その分も加味しなければなりません。

 

関連する法律:改正労働契約法「無期転換」

人事担当者は同一労働同一賃金を考える上で、平成24年8月に成立した、改正労働契約法を確認しておく必要があります。
ここでポイントとなるのが、有期労働契約を繰り返し更新して通算5年超雇用したら、本人の申し込みにより無期労働契約に転換しなければならない、というルールです。2018年4月から、5年超雇用してきたパート社員や契約社員が無期化対象となる動きが、本格化してきました。

同一労働同一賃金を考える際、ここでひとつ問題が生じます。
それは、パート社員を無期化する場合と、フルタイム契約社員を無期化する場合では、同一労働同一賃金の取り扱いが変わってくる、ということです。

5年超雇用したパートを無期化した場合、その人が短時間で働き続ける場合は、短時間労働者として、同一労働同一賃金によって待遇改善検討の対象になります。
しかし、5年超雇用したフルタイム契約社員を無期化すると、有期雇用契約者ではなくなり、もちろん短時間労働者でもありません。すなわち、正社員側の扱いとなってしまいます。正社員は同一労働同一賃金の比較対象とはなる反面、当事者としての立場から外れてしまいます。
今後、フルタイム契約社員を無期化して、同一労働同一賃金の対象から外そうとする企業が現れるかもしれません。これは、同一労働同一賃金の仕組みの「抜け穴」といえます。

 

関連する法律:高年齢者雇用安定法「定年延長」

次に、高年齢者雇用安定法を見てみましょう。企業の雇用義務年齢を、65歳まで引き上げる法律です。
65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用を確保するために、次のいずれかの措置を導入しなければなりません。
①定年の引上げ
②継続雇用制度の導入
③定年の定めの廃止

経過措置により2022年3月までは63歳、2025年3月までは64歳となっていますが、2025年4月からはすべての会社が65歳までの雇用措置をとる必要があります。

企業が65歳までの雇用を実施するには、①定年の引上げ や、③定年の定めの廃止も選択できますが、多くの企業は、②継続雇用制度の導入を採用しています。
継続雇用制度とは、60歳などの定年制は変えずに、本人の希望によって65歳まで再雇用する方法です。
そのため、人事担当者は、有期雇用となった定年再雇用者の同一労働同一賃金についても、検討しなければなりません。

 

「抜け穴」問題の考え方

 

同一労働同一賃金の実施は、非正規社員の賃金などの待遇を引き上げることになります。そこで、人件費の引上げを回避しようとする会社は、待遇引き上げの対象となる従業員を減らそうとするかもしれません。
その点では、今回の法改正には、「抜け穴」があると考えられます。

懸念されるのは、無期転換後のフルタイム契約社員です。先述したように、有期雇用契約者でも短時間労働者でもないため、今回の法律の対象外です。フルタイム契約社員を無期転換してしまえば、正社員との比較において、同一労働同一賃金かどうかが問われることがなくなります。

定年延長についても、同じようなことが言えます。これまで、定年再雇用で嘱託契約社員として継続雇用していた会社が、65歳までの定年延長を選択すればどうでしょう。65歳定年制を選択すれば、65歳まで正社員なので、やはり同一労働同一賃金の対象外となります。通常、定年再雇用制度から定年延長に切り替える企業では、待遇改善を伴うケースが多いことは事実です。しかし、60歳までの賃金よりは一定水準引き下げる会社が多数派と考えられます。そのため、定年延長に伴う60歳以降の正社員の賃金水準が、新たな問題になるかもしれません。

あと、今回の法律で問われるのは、同じ会社に所属する(同一の事業主に雇用される)正社員と比較した場合の、非正規社員の格差問題です。別の会社に所属する(異なる事業主に雇用される)正社員は、比較対象とはなりません。そこで、非正規社員(あるいは正社員)を、別会社で雇用し、業務請負や人材派遣のかたちで、自社の業務に従事すれば、どうなるのでしょうか。

おそらく、これらのケースでも、実態を見た上で適切な判断がなされるとは思いますが、このような「グレーゾーン」や「抜け穴」は、今後、社会問題になるかもしれません。

 

とはいえ、フルタイム無期転換者をフルタイム有期契約者より低い待遇にするというのは現実的ではないので、間接的に正社員との格差は是正されることになると思います。有期契約者には賞与が出るのに、無期転換したら賞与が出ない、という制度はつくりづらいからです。

定年延長についても同様です。定年延長しておきながら、従来の定年前より極端に待遇を引き下げることは、対象者の不満を拡大することにつながります。「定年延長と言っておきながら、こんなに給与を下げられるのは納得できない」といった不満です。

また、「同一労働同一賃金逃れ」のための、分社化や別会社設立も大きな企業リスクを伴います。SNSなどインターネットによる情報発信が簡単にでき、悪評が瞬く間に拡散する時代です。脱法行為で人件費上昇は抑えられたとしても、それを大幅に上回るダメージを社会から受けるかもしれないのです。

山口 俊一

執筆者

山口 俊一 | 人事戦略研究所 所長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。