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「無期転換」は契約・パート社員に朗報か

2018/04/04

複雑化する”働かせ改革”のゆくえ

 

有期社員の将来は、正社員か? 契約終了か?


 
いよいよ、2018年4月から、有期契約者の無期転換申し込み権が発生します。労働契約法の改正により、「有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときに、労働者の申し込みによって無期労働契約に転換されるルール」が本格化するのです。

厚生労働省の調査で、大手自動車メーカー10社のうち7社が、再契約までに6カ月以上の空白期間を設ける仕組みを使って、無期転換できないようにしていることが判明しました。

一方、クレジットカード会社のクレディセゾンは、アルバイトを除く非正規従業員約2200人を、全員正社員化しました。家具小売のイケアジャパンも、既に正社員・非正社員の雇用区分を廃止し、いわゆる「同一労働同一賃金」を実現しています。

このようなニュースを見ると、「有期社員の将来は、正社員か? 契約終了か?」という二択のような印象を受けます。ところが、ニュースとして採り上げられるのは、目立ったケースだからともいえます。以前、当連載の(「2018年に大量発生する「無期契約社員」はどんな社員か?」)でも述べたように、多くの企業の対応は、有期契約を無期契約に切り替えるだけの「無期契約社員化」です。

また、4月まで秒読みの現時点においても、明確な雇用ルールを決められていない、あるいは対象者に伝えていない会社が少なくないことも事実です。このような曖昧な企業の態度は、有期契約社員にとっては死活問題ですので、決して許されることではありません。

ところが、企業の人事担当者にとっては、致し方ない面もあります。とにかく、度重なる法改正により、雇用形態が多様化し、かなり複雑な管理が求められるからです。

たとえば、これまで次のような雇用形態の社員を抱えるA社があったとします。

 

(1)正社員
(2)フルタイムの契約社員
(3)パート社員
(4)定年再雇用後の嘱託社員
(5)派遣社員

 

 

無期契約の派遣社員?

 

法改正に併せて、A社も雇用形態の見直しを検討することになるでしょう。

まず、(2)フルタイムの契約社員については、5年経過後に、優秀さの度合いによって雇用形態を分けたいとします。たとえば、試験か人事評価結果によって、「正社員」「無期契約社員」「雇い止め」の3つに振り分けることになるかもしれません。ただし、どうしても残ってもらいたい人のために、正社員化コースを設けたとして、転勤や職種転換があると本人が躊躇するケースも出てくる。そこで、勤務地や職種を限定した「限定正社員」を新設することになります。

(3)パート社員は、短時間勤務を希望する人たちが多いので、5年経過後には「無期パート社員」か、5年以内の「雇い止め」。フルタイムで勤務できる人に限っては、「限定正社員」「無期契約社員」という選択肢も考えられます。

(4)定年再雇用後の嘱託社員は、どうでしょう。今でも、65歳までは、企業に継続雇用が義務化(猶予期間あり)されています。その上で、政府は65歳超の人材も雇用するよう、企業に働きかけています。法制化までは至っていませんが、助成金などの促進策を積極化させています。65歳以降も雇用継続可能な会社の場合、65歳時点で再度、賃金水準の引き下げを行うケースが少なくありません。体力的にも業務量などを見直すタイミングであることと、本人も年金が満額支給となるため、労使ともに納得しやすいからです。

すると、「60歳までの嘱託社員」に加え、「65歳以降の嘱託社員」の雇用制度も考えないといけません。賃金だけでなく、雇用上限年齢をどのように設定するか、といった内容です。

(5)派遣社員は、さらにややこしい問題が発生します。派遣社員との雇用関係は、A社ではなく、派遣会社です。従って、無期転換については、派遣会社が対応すべきことです。ところが、派遣されている人が、派遣会社と無期契約を結んでいるのか否かによって、A社にも大きな影響があるのです。

労働者派遣法の改正により、同じ人を、1つの会社の同じ部署に派遣できる期間は、3年が限度となりました。その最初の期限が、2018年9月末に迫っています。ただし、派遣会社に無期雇用されている場合には、この3年ルールの適用が除外されています。それなら、無期雇用されている派遣社員のほうが良さそうに思えますが、一概にそうとは言えません。無期雇用に伴うコストやリスクは派遣会社が追うことになるため、派遣先企業に対して、派遣料の値上げを要請するケースが増えているのです。

いずれにせよ、派遣社員についても「有期契約の派遣社員」と「無期契約の派遣社員」が発生するのです。

 

働き方改革関連法案のゆくえは

 

以上、A社の人事担当者としては、もともと5種類の雇用形態を、

 

(1)正社員
(2)限定正社員
(3)無期契約のフルタイム契約社員
(4)有期契約のフルタイム契約社員
(5)無期契約のパート社員
(6)有期契約のパート社員
(7)65歳までの嘱託社員
(8)65歳以降の嘱託社員
(9)有期契約の派遣社員
(10)無期契約の派遣社員
と10種類に分けて、制度設計や雇用管理をしなければならなくなりました。

まさに、10人の話を同時に聞くことができたという、聖徳太子のような対応が求められることになったのです。

加えて、2017年秋の解散総選挙により、臨時国会で成立するはずだった、働き方改革関連法案の審議も今年にずれ込むことになりました。この中に、正社員と非正規社員の待遇格差を是正する、いわゆる「同一労働同一賃金」に関する法案も含まれています。この法案の行方も、人事担当者にとっては、頭の痛い問題です。

有期社員を無期転換するのはいいけれど、次に正社員との待遇格差の是正や、待遇格差を正当化できる根拠の整備が必要となりそうだからです。

現場からは人手不足の改善を要求される半面、法的には複雑な対応が求められる。人事部門にとっては、受難の年を迎えたと言えるのではないでしょうか。

2018/2/26  PRESIDENT Online 掲載記事

山口 俊一

執筆者

山口 俊一 | 株式会社新経営サービス 社長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、900社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。