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人事部門必見! 同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)への対応策

2019/01/08

2018年12月28日、「同一労働同一賃金ガイドライン」(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)が、交付・公示されました。2016年12月に発表された「同一労働同一賃金ガイドライン案」に一部修正・加筆し、正式なガイドラインとなっています。
「基本的な考え方」として、以下のように表現されています。

 

基本的な考え方
この指針は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者との間に待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものであり、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものでないのか等の原則となる考え方及び具体例を示したものである。

 

事業主が、第3から第5(第3:短時間・有期雇用労働者、第4:派遣労働者、第5:協定対象派遣労働者)までに記載された原則となる考え方等に反した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある。

 

なお、この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる。このため、各事業主において、労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれる。

 

ガイドライン案の時点では記載のなかった「退職手当」「住宅手当」「家族手当」についても触れているものの、「不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」という表現に留められており、各社の手当格差が認められるのか否かについては、今後の裁判次第ということになりそうです。
「いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを示したものである」というガイドライン案の表現からも、ややトーンダウンした印象です。
とはいえ、指針が出された以上、企業はこれを基に賃金など人事制度の再検討を進める必要があります。
そこで、短時間・有期雇用労働者の待遇格差是正について、企業としての対応方法を考えてみましょう。

 

短時間・有期雇用労働者(派遣労働者は別途)

基本給
①基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するもの 基本給であって、労働者の能力又は経験に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の能力又は経験を有する短時間・有期雇用労働者には、能力又は経験に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、能力又は経験に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
②基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するもの 基本給であって、労働者の業績又は成果に応じて支給するものについて場合、通常の労働者と同一の業績又は成果を有する短時間・有期雇用労働者には、業績又は成果に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、業績又は成果に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
なお、基本給とは別に、労働者の業績又は成果に応じた手当を支給する場合も同様である。
③基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するもの 基本給であって、労働者の勤続年数に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の勤続年数である短時間・有期雇用労働者には、勤続年数に応じた部分につき、通常の労働者と同一の基本給を支給しなければならない。また、勤続年数に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた基本給を支給しなければならない。
④昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うもの 昇給であって、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについて、通常の労働者と同様に勤続により能力が向上した短時間・有期雇用労働者には、勤続による能力の向上に応じた部分につき、通常の労働者と同一の昇給を行わなければならない。また、勤続による能力の向上に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた昇給を行わなければならない。
基本給(注)
1(通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合の取扱い) 通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に基本給、賞与、各種手当等の賃金に相違がある場合において、その要因として通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的又は抽象的な説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの相違は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない。

 

まず、基本給については、以下のような選択肢が考えられます。

 

対応策1
有期社員・パート社員を正社員の等級制度・基本給制度に当てはめる。(ただし、転勤の有無、職場配置・職種 転換の有無、勤務可能な労働時間による基本給差は設定する)

 

対応策2
正社員と非正規社員の仕事区分を明確することで、現状の賃金格差を維持する。

 

対応策3
有期社員・パート社員も含めた共通の等級制度・基本給制度を新たに設計し、全社員に適用する。(正社員の制度も見直す。条件差による基本給差は、対応策1と同じ)

 

本法律の目指すところは、対応策1もしくは3のように、「正社員、非正規社員とも同じ制度を適用する」ですが、注意書きでは「不合理でなければ、賃金の決定基準・ルールの相違」は認められるとしています。
事実、たいていの会社は、正社員と非正規社員では、異なる給与制度を適用しています。
そのため、対応策2のように、仕事区分の明確化などにより、異なる給与制度を採用していることの妥当性を証明しようする会社が、多数派になると思われます。

 

基本給(注)
2(定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者の取扱い) 定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者についても、短時間・有期雇用労働法の適用を受けるものである。このため、通常の労働者と定年に達した後に継続雇用された有期雇用労働者との間の賃金の相違については、実際に両者の間に職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の相違がある場合は、その相違に応じた賃金の相違は許容される。

 

さらに、有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たりうる。定年に達した後に有期雇用労働者として継続雇用する場合の待遇について、様々な事情が総合的に考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かが判断されるものと考えられる。したがって、当該有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない。

 

更に、定年再雇用者については、「継続雇用は、考慮される事情に当たりうる」として、より柔軟な姿勢を示しています。そこで、以下のような選択肢のうち、本法律に関しては対応策2を採ってもよさそうに思えます。しかし、シニア社員層の定着や士気向上を狙いとして、待遇改善や定年延長に踏み切る会社も増えています。法対応というよりは、むしろ組織力強化など積極的な目的で、対応策1を検討すべきと考えます。

 

対応策1
定年再雇用者については、賃金水準など処遇制度について、別途必要な見直しを検討する。

 

対応策2
定年再雇用者については、今回の見直しの対象外とする。

 

賞与
賞与であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについて、通常の労働者と同一の貢献である短時間・有期雇用労働者には、貢献に応じた部分につき、通常の労働者と同一の賞与を支給しなければならない。また、貢献に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた賞与を支給しなければならない。

 

(問題となる例)
イ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社において、通常の労働者であるXと同一の会社の業績等への貢献がある有期雇用労働者であるYに対し、Xと同一の賞与を支給していない。

 

ロ 賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。

 

賞与については、格差是正に取り組んだ場合、人件費上昇インパクトが最も大きなテーマと思われます。
特に、パート社員に対しては、寸志程度の少額支給や全く賞与支給していない会社が多いからです。
賞与は「貢献に応じて支給」されるのが一般的ですので、この文面からは寸志や支給なしは認められないことになります。しかしながら、これまでの裁判では、賞与格差について明確な違法性が示されていませんので、しばらくは様子見の会社が多くなりそうです。

 

対応策1
有期社員・パート社員に対しても、正社員と同様の賞与制度を導入する。

 

対応策2
賞与については、具体的な判例が出るまで、様子見とする。

 

手当
(1)役職手当であって、役職の内容に対して支給するもの 役職手当であって、役職の内容に対して支給するものについて、通常の労働者と同一の内容の役職に就く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の役職手当を支給しなければならない。また、役職の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた役職手当を支給しなければならない。
(2)業務の危険度又は作業環境に応じて支給される特殊作業手当 通常の労働者と同一の危険度又は作業環境の業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊作業手当を支給しなければならない。
(3)交替制勤務等の勤務形態に応じて支給される特殊勤務手当 通常の労働者と同一の勤務形態で業務に従事する短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の特殊勤務手当を支給しなければならない。
(4)精皆勤手当 通常の労働者と業務の内容が同一の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の精皆勤手当を支給しなければならない。
(5)時間外労働に対して支給される手当 通常の労働者の所定労働時間を超えて、通常の労働者と同一の時間外労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者の所定労働時間を超えた時間につき、通常の労働者と同一の割増率等で、時間外労働に対して支給される手当を支給しなければならない。
(6)深夜労働又は休日労働に対して支給される手当 通常の労働者と同一の深夜労働又は休日労働を行った短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の割増率等で、深夜労働又は休日労働に対して支給される手当を支給しなければならない。
(7)通勤手当及び出張旅費 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の通勤手当及び出張旅費を支給しなければならない。
(8)労働時間の途中に食事のための休憩時間がある労働者に対する食費の負担補助として支給される食事手当 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の食事手当を支給しなければならない。
(9)単身赴任手当 通常の労働者と同一の支給要件を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の単身赴任手当を支給しなければならない。
(10)特定の地域で働く労働者に対する補償として支給される地域手当 通常の労働者と同一の地域で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の地域手当を支給しなければならない。

 

ここに掲げられた手当類については、正社員に合わせていくことになるでしょう。ただし、非正規社員に通勤手当を支給していない会社などを除けば、人件費への影響はさほど大きくないと考えられます。
問題は、先述の「基本的な考え方」にしか触れられていない「家族手当」「住宅手当」「退職金」の扱いです。
日本郵便訴訟における大阪地裁のように、「扶養手当について、契約社員が家族を養う負担は正社員と変わらない」といった判断が定着するようであれば、同一労働か否かは問われないことになり、パート社員にも同じ理屈が成り立つことになります。もし今後、パート社員にも「家族手当」「住宅手当」「退職金」支給を求めるような最高裁判断が下されることになれば、以下の対応策3も真剣に考えないといけなくなるでしょう。
現時点においても、対応策1か対応策2までは、検討が必要です。

 

対応策1
通勤手当、食事手当についてのみ、有期社員・パート社員と正社員の支給額を統一する。
(勤務時間による金額差は設ける)

 

対応策2
(1)役職手当~(10)地域手当について、有期社員・パート社員と正社員の支給額を統一する。(勤務時間による金額差は設ける)

 

対応策3
「家族手当」「住宅手当」「退職金」についても、有期社員・パート社員と正社員の支給額や制度を統一する。(①正社員に合わせる ②廃止や支給額縮小も含め、新しい制度を作成し統合)

 

福利厚生
(1)福利厚生施設(給食施設、休憩室及び更衣室をいう。以下この(1)において同じ。) 通常の労働者と同一の事業所で働く短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の福利厚生施設の利用を認めなければならない。
(2)転勤者用社宅 通常の労働者と同一の支給要件(例えば、転勤の有無、扶養家族の有無、住宅の賃貸又は収入の額)を満たす短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の転勤者用社宅の利用を認めなければならない。
(3)慶弔休暇並びに健康診断に伴う勤務免除及び当該健康診断を勤務時間中に受診する場合の当該受診時間に係る給与の保障 短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の慶弔休暇の付与並びに健康診断に伴う勤務免除及び有給の保障を行わなければならない。
(4)病気休職 短時間労働者(有期雇用労働者である場合を除く。)には、通常の労働者と同一の病気休職の取得を認めなければならない。また、有期雇用労働者にも、労働契約が終了するまでの期間を踏まえて、病気休職の取得を認めなければならない。
(5)法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)であって、勤続期間に応じて取得を認めているもの 法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)であってについて、勤続期間に応じて取得を認めているものについて、通常の労働者と同一の勤続期間である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の法定外の有給の休暇その他の法定外の休暇(慶弔休暇を除く。)を付与しなければならない。なお、期間の定めのある労働契約を更新している場合には、当初の労働契約の開始時から通算して勤続期間を評価することを要する。

 

ここに挙げられた福利厚生や休暇に関しては、格差を洗い出し、是正していくことになるでしょう。

 

対応策1
福利厚生・休暇については、有期社員・パート社員を正社員の基準に合わせる。

 

対応策2

 

その他
(1)教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するもの 教育訓練であって、現在の職務の遂行に必要な技能又は知識を習得するために実施するものについて、通常の労働者と職務の内容が同一である短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の教育訓練を実施しなければならない。また、職務の内容に一定の相違がある場合においては、その相違に応じた教育訓練を実施しなければならない。
(2)安全管理に関する措置及び給付 通常の労働者と同一の業務環境に置かれている短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の安全管理に関する措置及び給付をしなければならない。

 

教育訓練については、「職務内容の違いに応じて実施」ということですので、全く何も行っていなかったような会社については、改善が求められます。

 

対応策1
教育訓練については、有期社員・パート社員についても、職務内容に応じた実施を行う。

 

対応策2

 

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山口 俊一

執筆者

山口 俊一 | 株式会社新経営サービス 社長

人事コンサルティング、講演、執筆活動を中心に活躍している。職種別人事をベースにした独自の発想と企業の実状に沿った指導により全国からコンサルティング依頼を受け、定評を得ている。現在までに中小企業から一部上場企業まで、900社以上のコンサルティング実績を持つ。主なコンサルティングテーマは人事評価・賃金制度の構築、組織運営など。

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